そこから最も誰もが騙されてしまうほら吹き話を決定するシリーズ。
今回はその⑫。引き続き『天挑五輪大武會』の決勝戦冥鳳島十六士戦で登場した民明書房、その後半。
①はこちらから。
前回はこちら。
気づけば10回を超えてるよ。
ベスト民明書房候補もだいぶ集まってきましたね。
そう、各回で騙されてしまうベスト民明書房を決めてきたからね。
最後に、決勝戦をやりましょう。
それでは、今回もはじめていきましょう。
例によって、多少端折りながら進めます。
また、太公望書林などの民明書房以外の出版社も含めます。
災害時に役立つ『頭槌鐘砕』
『頭槌鐘砕』。
民明書房刊『誰が為に鐘は鳴る』より。
なんですかこのタイトルは?
ついに民明書房の小説?
いや、小説ではないと思うけど、鐘専門雑誌なんじゃない?鐘マガジンみたいな?
鐘マガジン!?
“あらゆる格闘技において、手足につぐ人体第三の武器は頭である。しかも、その破壊力は手足をも凌ぐ場合がある。中国拳法に於いてはことのほか重視され武闘家達は頭を鍛えることに精進した。その修行方法の究極が頭槌鐘砕であり、これは寺院の鐘を撞木のかわりに頭で突くという荒業であった。これを極めた者の頭は瘤が固まり骨も変形し金槌のような強度・形態を有したという“。
撞木ってのは、鐘をでかい長い木の棒のことですかね。
あれを人間でやるってことですか。
こんな感じだね
ひでぇな!
これ酢漬けみたいに虐待じゃないんですか?
メリットあります?
筋トレだったら、かっこいい肉体が手に入るとか健康になるとかありますけど。
かっこいい肉体が手に入るよ。
ほら!
いや、頭!
なにこれ!全然かっこよくないよ!
後ろのおっさん笑ってない?
その人が師範だからね。
師範が笑っちゃだめでしょ。
でもこのエピソードはかっこいいよ。
“中でも達人中の達人の撞く鐘の音は、なんと周囲十里(40km)にまで鳴り響き、大みそかの除夜の鐘や災害時の警報としても役立った“。
40キロだよ!新宿から八王子だよ!
いやデメリットが大きいでしょ。
普通に撞木使いなよ。
たしかにね。
みんなが紅白や格闘技見てるときに、この人は撞木になって鐘ついてるんだもんなあ。
年末ぐらいゆっくり休みたいよなあ。
そうですよ。
だいたい”達人の撞く鐘”っていうけど、普通は鐘の撞き手のことを指すでしょ。
撞木になる人のことを言わないでしょ。
たしかに、どっちだかわからないな。
つまり、ここが引っ掛かって、この民明書房を信じることができないと。
そこだけじゃないですけどね。
とにかく、こんなもんには騙されないですよ。
非効率『傀儡窕彭糸』
『傀儡窕彭糸(くぐつちょうほうし)』。
民明書房刊『中国拳法に見る東洋医術』より。
さっきもちらっと登場した
冥鳳島十六士の師範・洪礼明の技。
糸で人間をマリオネットのようにあやつることができる。
さっきのおっさんだ。
“人体の筋肉運動を命令するのは脳であるが、その脳と筋肉各部の中継点となるのが神経節である。ここに糸のついた極細の針を打ち込み、糸の微妙な操作によって刺激し相手を自在に操るのがこの技の要諦である。その発祥は中国秦代、金の採掘で知られる華龍山とされ、他国からさらってきた奴隷達を効率的に働かせる為に使われたという“。
奴隷を働かせる技ですか。
あのおっさん弟子を変な頭にしたり、恐ろしいことばかりしますね。
そんな悪い人でもないんだけどね。
ちなみに、こんな感じよ。
たしかにマリオネットみたいですね。
ただこれ、上のやつらも一緒に働いたほうが作業効率絶対いいよな。
たしかに。
操るほどのことさせてないですしね。
「作業しないと梯子おろさないぞ」って言えばいいだけだしな。
これも信じるのは難しいですね。
百歩神拳を更に強大『千歩氣功拳』
『千歩氣功拳(せんぽきこうけん)』。
民明書房刊『氣の科学』より。
洪師範の本領発揮。
体内の氣を放出する奥義。
そういうのもできるんですね。
そうよ。洪師範は強いんだよ。
相手は、あの男塾塾長江田島平八だからね。
出た塾長!塾長は最強ですもんね。
てことは、大物同士の対決なのか。
そうなのよ。
だから、この千歩氣功拳も正統派すぎて、民明書房もかなりまじめよ。
“離れた所から氣功によって発する氣という人体エネルギーだけで敵を倒す「百歩神拳」は広く知られているが、これを更に強大にしたのが千歩氣功拳である。数ある中国拳法奥義にあって至高の技であり拳を志す者はだれもが修得を夢見るが、これを極めた者は数少ない“。
たしかに。ツッコミどころがないですね。
この「百歩神拳」ってのは、よく聞きますよ。
『闘将!!拉麺男』でラーメンマンも使ってたよ。
『ジャングルの王者ターちゃん』でも出てきましたよ。
氣功の技としてあるんだろうね。
この氣があるかどうかって話は、民明書房とはまた別の話になるから…
次、行きましょう。
禁じ手模写矢倉『千日颮鏡』
『千日颮鏡(せんにちほうきょう)』。
民明書房刊『中国の奇拳―その起源と発達―』より。
あれ?『世界の怪拳・奇拳』じゃないんですね。
この本は中国限定なんだね。
この千日颮鏡は冥鳳島十六士の紫蘭が伊達に繰り出したコピー技だ。
“この技の要諦は、集中力・反射神経を極限までとぎすまし相手の動作を寸分たがわず一瞬にして模倣することにある。その修行法は数あるが代表的なものは氷柱の下で滴る水滴を反射神経のみにより無意識のうちにかわすことが出来る様になるまで禅を組むというものである“。
反射神経を鍛えることで、相手の動きをコピーできるってわけですね。
そう。
「人のふり見て我がふり直せ」って言葉はここから来てるんだって。
ホントに!?
まぁ、これはどっちでもいいや。
今回は特殊なケースで、要諦はここじゃないのよ。
わっ!要諦って使ってる!民明書房に影響されてる!
紫蘭が千日颮鏡を使ったときに発したこのセリフをみてみよう。
模写矢倉?
そう、将棋の禁じ手らしい。
ただ、こんなの調べても出てこないんだよ。
てことは、ここから仕掛けてるんだ!
そう!そして、幼き私はこれを信じてました!
呉竜府だけじゃなかったんですね。
千日颮鏡は何とも思わなかったんだけどなあ。
この模写矢倉は信じちゃったよ。
たしかにこれは騙されるかも。
実際にネットで模写矢倉にういて書いてる人いたしね。
わかっててやってるのかもしれないけど。
ではこれは、騙される、で決定ですね。
ラザニャーノ民俗博物館『赤鞭斬』
『赤鞭斬(レッドウィップジェノサイド)』。
民明書房刊『世界拷問史』より。
冥鳳島十六士スパルタカスが使う刃物がついた鞭。
“帝政ローマ時代、奴隷達を処罰する為に用いられた武器。この鞭の特徴は鋭利な刃物が間隔を置いて仕込まれており、その為ひねりやしなりが自由自在という点にある。赤鞭(レッド・ウィップ)の名は、常にその皮部分が人の血の色に染まっていたことに由来する“。
なんかありそうですね。
『世界拷問史』はご丁寧に図解までのせてくれてるよ。
ラザニャーノ民俗博物館にあるんだ。
またありそうな名前だこと!
イタリアっぽいね。
そういえばドミノピザにラザニアーノってあるし。
しかし、この鞭は作るのが大変そうだな。
間隔あけないといけないから作業時間相当かかるぞ。
普通の鞭で十分ですね。
超近代兵器『スコルピオン』
『スコルピオン』
民明書房刊『世界史にみる現代兵器の源泉』より。
これはスパルタカスがのっている騎馬戦車です。
1対1の戦いですよね?
それで騎馬戦車って珍しいですね。
“古代ローマ帝国の英雄カエサルが考案し使用した伝説の兵器。その威力は絶大でラビオーリの戦いでは、敵国メルビアの兵一万をこのスコルピオンと名付けた騎馬戦車わずか十両で壊滅させたという。その秘密は驚異的な装備・仕掛けにあり、まさに当時としては超近代兵器だったわけである”。
十両で一万の兵を壊滅したんですか!?
そう、メルビアの一万の兵をね。
そんな国あったんですか?
なんにせよ、一万の兵を壊滅はすごいですよ。
相当な装備や仕掛けだったんですね。
古代のローマにとっては、超近代兵器だったみたいね。
戦国自衛隊みたいなものかな。
あれも戦車が出てきましたよね。
で、どんな仕掛けなんですか?
車軸から刃物が出てグルグルまわる。
まぁ、それぐらいはあるでしょうね。
他は?
前面から大きな傘が出て、弓矢とかはじける。
はあ。
前見えるんですかね?
他は?
それだけ。
いや、それで一万の兵を壊滅は無理でしょ。
あっ、忘れてた!
馬が鼻の穴から含み針を出す。
ぜんぜん近代兵器じゃねえ!
“ちなみに二十世紀の戦車設計にもそのアイデアは数多く取り入れられている“。
どこを取り入れるのさ!
“馬の鼻から含み針”を取り入れた戦車なんてないでしょ!
信じない?
信じるわけないでしょ。
龍虎相討つ『暹氣龍魂・暹氣虎魂』
『暹氣龍魂(しんきりゅうこん)と暹氣虎魂(しんきふうこん)』。
民明書房刊『中国秘拳満漢全席』より。
ついに大将戦なんですね。
“中国拳法において、人体最後の神秘とされる「氣」エネルギーを利用した技は数あるが、中でもその最高峰とされるのがこれである。この技の要諦は「氣」を刀身に集中し、龍(虎)の形をした衝撃波として繰り出すことにあり、その圧倒的な破壊力に比例して消耗度も大きい為、短時間に連続して撃つことは不可能とされる。ちなみに、同等の実力をもつ者同士が闘う様を「龍虎相討つ」と表現するのは、これが源である“。
藤堂が使うのが『暹氣龍魂』、桃が使うのが『暹氣虎魂』。
違いはあるんですか?
氣のデザインだけ。質はまったく一緒。
へぇ。
…。
…。
特に言うことないね。
そうですね。
氣を出されると、何にも言えないですね。
「龍虎相討つ」の源ってのも違うだろうしね。
絶対違いますね。
次、いきましょうか。
因果応報『炎刀嗋油闘』
『炎刀嗋油闘(えんとうきょうゆとう)』。
民明書房刊『炎の武将・織田信長』より。
先ほどの桃vs豪毅で行われた決闘法。
また馬鹿なことをしたんですね。
“その発祥は戦国時代の名将・織田信長が侍大将を決める為に、ふたりの候補者を闘わせたことにある。全身に油をかぶり、長時間火をともせる松ヤニを刀身に塗り、触れただけでも火ダルマというこの決闘法を考案したのは、冷酷非情と呼ばれた信長ならではといえよう“。
ついに信長登場だよ。
秀吉もこれやったのかなあ?
こんなのやらせてたら本当にうつけですよ。
大事な人材失うだけだしな。
“余談ではあるが、この決闘法を度々楽しんだ信長が後に明智光秀による本能寺の変で炎に包まれ死を迎えたのは皮肉な因果応報といわざるをえない“。
本当だったら確かに因果応報ですけどねえ。
そして『炎の武将・織田信長』ってタイトルが比喩じゃなかったとはね。
燃やし燃やされってことだったんですね。
ミュンヒハウゼン出版『壟義盾行』
『壟義盾行(りょうぎじゅんこう)』。
ミュンヒハウゼン出版刊『心に残る戦国名勝負100選』より。
天挑五輪大武會の主催者藤堂兵衛の凶弾から塾生たちを守るために、男塾死天王の四人が身を挺して組んだ陣形。
クライマックスですね。
“戦国時代、屈指の名勝負として名高い武田信玄と上杉謙信の川中島の戦いの折、上杉方の部将・直江兼続の斥候隊が武田方の弓部隊の待ち伏せに遭遇し、窮地に陥った時に考案された戦法。死を決した四名の勇士が雨あられと飛来する矢に対し、互いにしっかりと肩を組み自らの体を盾として、前進し突破口を開き後に続く味方が敵を全滅させたという。以後、その戦法は至高の陣形とされ盾となった四名は上杉家の軍神として讃えられた“。
信玄、謙信、そして直江兼続まで出てきましたね。
実在した歴史人物パターンですね。
軍神として讃えられたかどうかはせておき、味方のために体を盾にしたってのはあってもおかしくない話だよね。
今回それより気になるのが、ミュンヒハウゼン出版よ。
そういえば民明書房じゃないですね。初めて出てきた。
ミュンヒハウゼン症候群って聞いたことある?
いや、ないですね。
それは本当にあるんですか?
これは本当にある言葉。
重い病気にかかったふりをして周囲から同情をほしがる精神疾患なんだって。
はあ~。
俗にいう「かまってちゃん」みたいな。
そう。厄介なのが、子どもがいる親のパターン。
母親の方が多いみたいだけど、病気の装いを子どもに課してしまうんだって。
薬を飲ませたり虐待したりして。
なにそれ、こわっ…、
別名、虚偽性障害。
ミュンヒハウゼンってのは、物語『ほら吹き男爵の冒険』の主人公であるミュンヒハウゼン男爵から命名されているんだ。
えっ…、
そのミュンヒハウゼンの名を冠した出版社が、ほら吹きと言われている民明書房に代わって登場したわけよ。
なんと!
て、ことは、
つまり…、
いや、それだけです。
お、おおう。
かけそばの由来『瞬徼刹駆』
『瞬徼刹駆(しゅんきょうせつく)』。
太公望書林刊『貴方にも出来る!中国拳法修行百科』より。
ミュンヒハウゼン出版は一発限りだったんですね。
太公望書林に戻ったね。また出てくるかもね。
『瞬徼刹駆』は、塾長vs藤堂兵衛で藤堂が見せた瞬足技だ。
最後の戦いですね。
“素早い動きを基礎とした秘奥義は中国拳法にも数あるが、中でも最高峰とされているのが、この瞬徼刹駆である。この技の修行法は硫酸池に浮かべた不溶性の紙片の上を驚異的速さで駆けぬけるというものであり、失敗すれば即死の恐るべき荒業であった。これを成し遂げ、達人の域に達した者は瞬きする間に二十間(約36m)を移動したという“。
帰ってきましたよ!硫酸が!
あっ、久々ですね。
やっぱり硫酸がないと民明書房じゃないですね!
修行法を見てみ!
“硫酸池に浮かべた不溶性の紙片の上を驚異的速さで駆けぬける“だよ。
“硫酸池“に目がいっちゃうけど、”不溶性の紙片“もなかなかのキチワードだよ。
何色なんですかね?その紙は。
“余談ではあるが、我々が親しんでいる「かけそば」は当時修業者達が座して食べる暇を惜しみ器を持って駆けながら食べたそばがその名の由来である“。
かけそば!
なんか雑!
もう硫酸池と不溶性の紙片の時点で、ひとかけらも信じていないからね。
そこに何言われても、何も感じないな。
かけそばなのに無味無臭でしたね。
今回は以上です。
どうでした?
一番騙されてもおかしくない民明書房を決めるんですよね。
今回はもう”模写矢倉“が決定じゃないですか?
厳密には民明書房でもないんだけどね。民明書房がふれてるのは『千日颮鏡』だけだから。
でも、まあいっか。
“模写矢倉“にしよう。
ワーストは?
「かけそば」でしょ。
次回につづく。
出典:集英社/宮下あきら/魁!!男塾
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