イグナシオ・ダ・シルバの本気は？レオン・グラシエーロの悪魔は？ジャージィ・ローマンは本気を出さない？【後編】

ボクシング編の男たちにも触れてみよう。

アメリカに渡った九十九は、若き天才ボクサーアリオス・キルレインに挑むため、

なんとかヘヴィ級王座統一トーナメント出場をこぎつけた。

最初の相手が、リック・ガンフォード。

唯一の白人ボクサーで、白人至上主義者だ。

父親をベトナム戦争で亡くしていることからアジア系を憎んでおり、

日本人の陸奥九十九に対しても、憎悪の感情を抱いている。

まぁ、そんなもんでしょ。

こちらも白人や黒人で一括りにしがちだし。

インド・ネパール料理屋行って、インド人とネパール人の区別つく？

そんな陸奥九十九vsリック・ガンフォード、

１Rは、リックの鋭いジャブとコンビネーションの前に、

九十九はまったく手が出せず、判定は10対８。

２Rに入ると、今度は陸奥がジャブを繰り出す。

さらには、コンビネーションまで使い出し、リックをダウン！

しかし、レフェリーはスリップと判定した。

これでリックの雰囲気がかわった。

「本気にならなけりゃあならないらしい….」

アメリカ人は、初っ端からイケイケだと思うよね。

そういえばアメリカ人は、

”ポジティブを演じなきゃいけない同調圧力がある”

って聞いたことあるぞ。

九十九からすると、

判定にもつれ込むと負ける可能性が高い。

アウェイならではの難しい闘いだったよ。

”ザ・ロードバック”、ジャージィ・ローマン。

元世界ヘヴィ級チャンピオン。

事故により家族を失って一度ボクサーを引退したが、

神の声を聞いて復帰、復帰後の戦績は20戦20勝20KOだ。

ローマンは人柄もいい。常に微笑みを絶やさず、王者の貫禄をもっている。

42歳と言う年齢ながら強大なパワーの持ち主でもある。

たまたま、飯屋で陸奥九十九と遭遇、戯言でアームレスリングを行ったときは、

両者のパワーでテーブルが破壊し、引き分けとなった。

アーロンは九十九に問う。

「どうして本気を出さなかった!?」

九十九は答えた。

「あんたがださなかったからさ….」

そのとおりだね。

アーロンも、

「本気はリングの上で見せようと思ってね…」

そう言い、拳をぐっと握りしめた。

陸奥九十九vsジャージィ・ローマンは、スローな展開から始まった。

両者はジリジリと少しずつ間合いをつめていく。

九十九から見るローマンは、とてつもなく巨大に見えていた。

しかも、対戦相手の九十九だけでない。

セコンドのテディや、実況にまで、その姿が巨大にみえていた。

いや、本気じゃないよ。

この１R終了後、アーロンが言った。

「次のラウンドでは、約束どおり本気を見せてもらうよ….」

九十九が返す。

「あんたもね….」

２Rに入ると、有言実行、アーロンは本気を出したよ。

「神の声」を聞き、九十九のパンチをことごとく見切った。

陸奥圓明流奥義『虎砲』すらも見切ってしまう。

龍造寺巌。

神武館最高師範でニューヨーク支部長だ。

ヒロイン龍造寺舞子の父。

婿養子だ。

徹心の娘、龍造寺凛子と結婚し、姓が変わった。

温和なオジさんだが、「神武館の鬼」といわれた実力者だ。

アリオス戦を控えた九十九には、問題があった。

それは、スパーリングパートナーがいないこと。

ジムに属さず、テディと二人三脚でやってきたからね。

ご名答。

驚いたことに、空手家の巌がグローブをつけると、

アリオスのように構え、アリオスのライトニングストレートを放ってみせた。

でも、本気ではなかった。

しかし、スパーリングで「鬼の血」が騒いだのか、

龍造寺巌はグローブを外し、構えを空手に変えた。

それに応じて、陸奥九十九もグローブを外す。

龍造寺凛子は言う。

「本気よ、あの二人….」

本気の龍造寺巌は化け物だったよ。

陸奥九十九が恐怖を感じたほどに。

大丈夫だったみたいよ。

拳が砕けて、肋骨が３本折れただけだって。

南洋竜サレバ・ペニタニ。

３か月前は現役だった元十両力士。

ブラジルで開催されたヴァーリ・トゥードに参戦した。

陸奥九十九との闘いでは、南洋竜は『仕切り』の構えをとった。

なんと、陸奥も仕切った。まるで相撲の『立ち合い』前だ。

陸奥が立つのを見て、南洋竜も立つ。

南洋竜の激しい『ぶちかまし』で、陸奥はふきとんだ。

再び仕切る両者。

二度目の立ち合いの瞬間、

陸奥が強烈な張り手を南洋竜に見舞った。

南洋竜の片膝が地についた。

決着の三度目。

日本でテレビ観戦している龍造寺凛子は言う。

「南洋竜は次は本気で立つわ….」

凛子さんは本気チェッカーよ。

さらに解説の飛田高明も言う。

「本気で立つ南洋竜は止められないぞ….」

まぁでもね、

「立ち合いは強くあたってあとは流れでお願いします」

ってね。

でも南洋竜は違うよ。

三度目は両者本気の立ち合いとなった。

熱かったよ。

陸奥の奥義も飛び出したしね。

イグナシオ・ダ・シルバ。

神武館ブラジル支部長徳光将の秘蔵っ子で、神武館南米チャンピオンだ。

めちゃくちゃ強い。

グラシエーロ柔術のエースであるラモン・グラシエーロに完勝してしまった。

190cmを超える恵まれた体格と、九十九以上に飄々とした性格の持ち主。

ロリオン・グラッシーのグラッシー柔術ね。

あちらとは、扱われ方に天地の差があるよ。

九十九対イグナシオでは、先に九十九が動いた。

素早いヒットアンドアウェイに、イグナシオは全く反応できない、

かと思われた。

イグナシオの左回し蹴り一閃、

陸奥九十九の頬が風圧でゆがんだ。

こちらを見てくれ。

陸奥九十九が言ったよ。

「本気出せよ」

陸奥もなかなか出さないね。

ただ最終的には、みんな本気を出してるからね。

そこは誤解しないでよ。

最後は、この男だ。

レオン・グラシエーロ。

かつて、無敗で『ヴァーリ・トゥード』に君臨していたが相手を殺めてしまい引退、

神父になり孤児相手に柔術を教えていた男だ。

『ヴァーリ・トゥード』の一回戦、二回戦では、

なんと実戦練習をしつつ勝利をおさめていた。

さらに、己に潜む「悪魔（ディアーボ）」を抑えつつ闘っていた。

これは完全だね。

さすがに準決勝のジョニー・ハリス戦では、

そうもいかなかったけどね。

「悪魔（ディアーボ）」も、ちらっと顔見せしちゃったよ。

四鬼竜の泉敏彦とか、いきなり得意技出す男もいるんだけどね。

まあ、また機会があれば、

今度は「修羅の門　第弐門」を見ていきたいと思います。